ドライバー認知症を専門的に判断 熊本県免許センターに看護師配置

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高齢化の進展に伴い、認知症など意識障害による交通事故が、大きな社会リスクとなっている。10月末には宮崎市で暴走した軽乗用車が6人をはね、うち2人が死亡する事故があり、73歳の男が自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)容疑で逮捕された。男はてんかんを患っていた。熊本県警は、こうした事故を防ごうと、県運転免許センターに今年1月、全国で初めて看護師を配置した。(南九州支局 谷田智恒)

 「ドライバー本人から日常生活の様子を聞くだけでなく、家族からの相談も受けます。威圧的な警察官より、ソフトに対応できている上、専門知識があるので、より正確な判断ができるんです」

 県警運転免許課次席の沖田茂行警視は、看護師配置の効果をこう語る。

 運転免許センター(菊陽町)には、熊本都市圏に住むドライバーが運転免許更新に訪れる。配置された2人の看護師は、適性相談などを通じて、ドライバーに認知症などの症状がないかを発見する。

 平成26年6月の道交法改正により、免許の取得時や更新時に、過去5年以内に意識を失った▽体を思い通り動かせなくなった-など5項目を尋ねる質問票の提出を義務付けた。

 認知症、てんかん、統合失調症など、運転に支障が出かねない病気にかかっていないかを確認するためだ。1つでも当てはまれば、適性相談を行う。

 だが、適性判断は従来、警察職員が担っており、病状の正確な把握は難しい。熊本県警は、専門知識を有する看護師配置に踏み切った。

 高齢化に伴い、適性相談の受付件数も急増している。熊本県だけで、25年の660件(県内警察署含む)から26年は2211件に膨らんだ。

 センター内の相談窓口で看護師は相談を受け、認知症などが疑われる人には、病院の受診を促したり、場合によっては免許の自主返納を勧める。

 今年の適性相談をみると、35件(10月末まで)が認知症関連の相談で、うち12件は免許の自主返納につながったという。

 沖田氏は「認知症でも本人にその意識がない人が多い。いかに早く病気について把握するかが大事であり、周りが気づいて、相談できる態勢づくりも重要だ」と指摘する。

 警察庁の統計によると、26年末時点の高齢者(65歳以上)の免許保有者は約1638万人で、10年前の約1・7倍に達した。26年に高速道路で起きた「逆走」事案224件のうち65歳以上は7割近い152件で、認知症が疑われるケースは26件だった。

 厚生労働省は、団塊の世代が75歳以上になる平成37年、認知症の人は約700万人に達すると推計する。

 高齢者の交通事故が問題となる半面、地方では移動手段をマイカーに頼らざるを得ない事情もある。高齢者にとって、車は必要不可欠な生活の足なのだ。

 運転適性を厳しく見極める必要とともに、高齢者に対する行政の支援も課題となる。